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秘する花

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慶応元年11月(1865年12月)、新選組局長 近藤勇は
長州訊問使 永井主水正尚志に随行し
参謀 伊東甲子太郎及び、監察方 山崎烝らと共に
広島へ西下する事になった。

それは『池田屋事件』を始め、長州潘から恨みを買いまくっている
『新選組』の頭である局長が、敵陣へ入るという事になる。

無事に戻って来れるかどうか、一か八かの賭けのようなものであった。

近藤は元より随行する隊士も正に同様であった。



しかも、参謀の伊東が自ら同行を申し出て来た。

長州を嫌っているはずの伊東が自ら進んで危険な旅に同行するというのは
何か思惑があるからに違いなかった。

それを察知した土方は、監察方の山崎烝を同行させ、
伊東の動向を含む委細を極秘裏に自分の元へ報告させる役目を与えた。










*                *                *










近藤達一行が京を出て数日が経った。



山崎は『新選組』の隊士である事を隠し、京の町に紛れて監察方として諜報活動をしている。

ここはその山崎が薬屋の喜助として居候している、髪結の店『床伝』である。

実は店の主の伝六は『壬生浪士組』に志願して来た血盟の同志で
娘のおみの共々情報探索に尽力している協力者なのだ。



「お父ちゃん!ほな、行って来ます〜。」

「へえ。気ぃつけて行って来よし。」



おみのは出仕事に行くところであった。
店へやって来る客以外に、自宅に髪結を呼ぶ客も何軒かあった。

道具箱を風呂敷に包んで持ち、客の元へと足を運ぶ。
道を歩きながらふと見ると稲荷神社の鳥居が目についた。



「 ………………。 」

一瞬おみのの足が止まる。

「………………やめとこ。今は髪結いの仕事が先。」

そう言って振り切るように足を速めた。







「ほな、おおきに〜。またよろしゅうに〜。」

仕事を終え、おみのは客の家から出て店へと戻るべく帰途についた。

すると当然ながら、さっきの稲荷神社がまた目に入る。



「 ………………。 」

今度は完全に足が止まった。

山崎が長州へ出向く前のやりとりを思い出す。










*                *                *










『おみのちゃ〜んv今度はほんまに命懸けの旅やで。』


厨で洗い物をしているおみのに山崎がまとわりつくようにくっついている。



『……【今度はほんまに】って今まで何べん聞いたやろか〜?』

からかうようにそう言って首を傾げながら横を向き、ひきつった笑いを浮かべる。



『今度はほんまにほんま!後に憂いを残さんように行きたいんやvv
せやから今夜一晩……ええやろ?』

そう言って後ろから抱き付いてきた。その拍子にフワッと残り香が香った。



『……どうやら今度はほんまみたいやねえ?』

『!……せやねん。わかってくれて嬉しわあvほな早よ用事終わらして』



『アホぬかし!もう既に憂いを残さんように遊里で妓の人と遊んで来はったんやろ?
この2日戻らはらへんかったんは居続けしてはったん?残り香しっかり残ってるえ?』

冷たい笑顔を貼り付けて置いてあった包丁を山崎の目の前にかざした。



──ギラリ★と光る包丁の光とキラリ☆と光るおみのの瞳。──



『ひっ…ひえぇ!!』

目の前に突きつけられた2つの鋭利な武器に山崎は思わず身を後ろに引いた。



『……つれないなあ……今度はほんまに危ないのに……。』

完膚なきまでに拒絶され、山崎は仕方なく半泣き状態で渋々上への階段を上って行った。



『ほんまに!女癖悪いんやから!』

小さな声でそう言いながら、おみのは山崎がいる階段の上を恨めしそうに睨んだ。



それは今まで何度となく繰り返されている光景だった。



そしてそのまま、翌朝早々に山崎は京を出て行ったのだった。










*                *                *










おみのはちゃんと今度の長州行きがどんなに危険な事なのか重々承知していた。
なんと言ってもおみのだって『新選組』の諜報活動に携わっているのだから。

だからこそむしろ特別な事をすると逆効果になるような気がしていたのだ。



本当はおみのは山崎に想いを寄せている。



だが、それは誰も知らない。

山崎本人は当然の事ながら、父の伝六も知らないはずだ。



──想いは誰にも隠し通す。──



それはおみのが『新選組』の情報探索に協力する
役目をする事になった時に決めていた。







山崎はいつもは調子の良い軽い遊び人を装っている……いや、
むしろ喜んでそうしているのかもしれないが……。

だが、監察方としての仕事ぶりは他の追随を許さない。

変装の腕も、人心を掌握する術も、身のこなしも剣の腕も。
超一流である事は間違いない。

それに加えて顔も二枚目である。

何せ家の居候なのだ。しょっちゅう顔も合わすし話もする。
おみのが想いを寄せて何の不思議があるだろうか?



山崎はいつもおみのにちょっかいをかけてくる。
それが果たして本気なのかどうか、おみのにはわからない。

一旦身体を許してしまえば、山崎にとって自分は
遊ぶための妓と同じ存在になってしまうのかもしれない。



おみのはそれが怖かった。



いや、もしかしたら山崎は真剣に自分に想いを寄せてくれているのかもしれない。

だとしても夫婦はおろか、男と女子の関係には決してなれない。
そういう関係になってしまったら、仕事がやりにくくなるからだ。

実際に山崎がしているように(現場をこの目で見たわけではないが)、
おみのも女子としての武器を使って情報収集せねばならない場合もある。

想いを通じ合わせ恋仲にでもなれば、迷いも出るし相手の事も気にかかる。

それで仕事をしくじれば、役目が役目なだけに大変な事になる。



山崎もおみのも父の伝六も、いつ『新選組』の手の者だと正体を暴かれるかわからない。
お互いにいつ命を落とす事になるかわからないのだ。



(だから絶対言わへん。山崎はんが好きやなんて。)










*                *                *










「 ………………。 」

おみのは鳥居をくぐり、神社の本殿へと向かった。

賽銭を入れ、鈴を鳴らして手を打ち拝礼する。



(局長が無事にお役目を終え、帰還されますように……。)

そう祈り終わると一旦顔を上げ、少し悩んでまた祈った。



(山崎はんがお役目をしっかり果たせますように。)



決して『無事に。』とは祈らない。



山崎の役目は何事もなく無事に局長を帰還させる事。

自分だけ無事に戻るような事は何があってもしない男だ。



だからこそ、おみのも無事を祈るのは局長の身だけ。







(局長をしっかりお守りし、お役目果たしてお帰りやす。)

旅の途中にいる山崎に聞かせるようにもう1度祈った。







おみのは再び顔を上げると稲荷神社を出て店へ戻る足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

終。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おみのさん主役のお話です。

ですが、この人が本編に出て来るのは極めて少ないんですよね…。
2回ぐらいですかね?山崎さんも比較的出番少ないですし。
まあ、市中に紛れて活動している監察方ですから当然と言えば当然なのですが。(汗)

セイちゃんは女子の身を偽って『新選組』にいて
おみのさんは女子として『新選組』の仕事をしてる。
この2人はある意味対極にいるっていう感じだなって思います。

セイちゃんは堂々と…でもないけど、総司が好きっていうのを態度に出してる。
周りには衆道と思われたりしてますけどね。

じゃあ、おみのさんも山崎さんを好きだとしたら?って考えた時に
「態度にも言葉にも出来ないだろうなあ…。」って思いました。
役目上、恋仲になるのは無理なんじゃないかなって。
私だったらやっぱりこの小説のおみのさんと同じ事をするだろうと思います。

そこからこういう話の流れになっちゃいました。

今回、葵ちゃん・sarasaraさん・ひろさん・游良さんと
ご一緒に企画をさせていただけて、凄く光栄です!
それぞれ素晴らしい作品ばかりで腰が引けてしまいましたが。
短くてインパクトのない作品でごめんなさい!

4人のみなさん、お疲れ様でした!楽しかったです♪
今後ともよろしくお願いいたしますね?

そしてお読みいただいた方達、ありがとうございました!


=菜緒りん=
2006.05.15

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